加工でんぷんは、植物から取り出したでんぷんを化学薬品で処理して作られる食品添加物(指定添加物)で、12種類あり、加工食品で広く用いられています。いずれも異なる構造と性質を持つ化学物質であるにもかかわらず、食品添加物の表示においては、化学物質名ではなく、「加工でんぷん」とまとめて表示することが、例外的に認められています。
加工でんぷんとは
加工でんぷんは、食品の劣化を防ぎ、賞味期限を長くしたり、食感をよくしたりする目的で、天然のでんぷんに対して、化学的な処理(加工)を施して作られる化学物質です。化学的処理とは、でんぷんを化学薬品を反応させることで、でんぷんに別の化学物質を結合させたり、でんぷんの構造を変化させたりすることです。加工でんぷんには次の 12 種類があり、いずれも食品衛生法第 12 条に基づき、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物である指定添加物に分類されています。番号※は、指定添加物リストの番号で、50音順に付番されているため、数字の大小には意味がありません。

ちなみに、粉砕処理などの物理的な処理や、酵素ででんぷんを分解するなどの酵素的処理を施したでんぷんは、加工でんぷんではなく「でんぷん」、「でん粉」、「澱粉」、「デンプン」等と表示され、食品として扱われます。
加工でんぷんが生まれた経緯
加工でんぷんの原料は、植物にふくまれるでんぷんです。でんぷんは、お米や小麦粉、トウモロコシなどに主成分として含まれる物質で、古くから食料として使われてきたものです。
技術が進歩して、でんぷんを加工食品の原材料として使うようになると、でんぷんがもともと持っていた性質を変えた方が都合がよい、と考えるようになりました。
水に溶けるようにする
でんぷんは水に溶けません。トウモロコシから作ったでんぷんであるコーンスターチを水に溶かすと溶けたように見えますが、時間が経つと底に沈澱します。澱粉という名前は、水の中に沈澱させて集めた粉という由来があります。でも、水に溶けたほうが、加工食品を作る際に便利な場合があります。
老化を抑える
でんぶんは時間とともに性質が変わります。お米を炊くと軟らかくなりますが、これはでんぷんの性質が変わったためで、この変化を糊化(=アルファ化)といいます。一方で、炊いたご飯をそのままにしておくと固くなってしまいます。また焼きたてのパンは軟らかいですが、時間が経つとパンはボソボソになっていきます。このように時間の経過とともに糊化したでんぷんから水分が抜けて、生のでんぷんに近い硬い状態になることを、老化(=ベータ化)と呼びます。
でんぷんの老化を抑えることができれば、食パンや、でんぷんをつかったさまざまな加工食品の賞味期限を延ばすことができます。また食品の食感を変えることも可能になります。
加工でんぷんの種類・用途・製造方法
酸化デンプン
- 用途:スナック菓子の食味改善や、せんべいなどの艶出し、フライの衣、天ぷら粉、麺の打ち粉など。
- 製造方法:でんぷんを次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理して作ります。グルコースの水酸基(OH)がカルボキシ基(COOH)に置換されるほか、でんぷんの鎖の一部が切断されて低分子化します。ちなみに次亜塩素酸ナトリウムというのは、漂白剤の成分です。
- 分子式:(C6H10O5)n(COOH)x
- 特徴:糊化開始温度が低い、糊液の粘性が低い、糊液の粘度安定性が高い、老化が遅い、透明性が高い、色が白いなどの特徴があります。またでんぷんが低分子化されているため、油で揚げたときに水抜けがよくなるため、カラッとした仕上がり、サクサクした食感が得られるようになります。
酢酸デンプン
- 用途:たれ類に加えて増粘性を高めたり、冷凍めんの食感改良に使われています。でんぷんを含む食品の調理後の老化を起こりにくくし、透明性の低下も防ぎます。
- 製造方法:でんぷんに無水酢酸または酢酸ビニルを反応させることで、でんぷん分子の水酸基(OH)の一部をアセチル基(CH3CO)に置換します。
- 分子式:(C6H10O5)n(CH3CO)x
- 特徴:グルコース 1 残基あたりのアセチル基の数(以下「置換度」という。)が多いほど糊化温度が低下し、弾力が減少し、粘着性が強くなりますので、でんぷんを含む食品の調理後の老化を防ぎます。またでんぷんの透明性も向上します。

リン酸化デンプン
- 用途:冷凍食品、チルド食品の老化抑制、ソース類やフィリング類の離水防止。
- 製造方法:でんぷんにオルトリン酸、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムのいずれかと反応させてエステル化させ、でんぷんの水酸基の一部をリン酸基に置換します。
- 分子式:(C6H10O5)n(H2PO3)x
- 特徴:置換度が高いほど、糊化しやすくなる。置換度 0.05 程度から冷水でも膨潤する。糊液は高粘性で透明である。保水性が強く老化しにくいので、耐冷凍性が高いという特徴があります。
アセチル化酸化デンプン
- 用途:たれ類の安定性向上や、グミキャンディーのボディー剤など。
- 製造方法:でんぷんを次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理したのち、無水酢酸を加えエステル化します。その結果、でんぷん分子の水酸基の一部がアセチル基(CH3CO)、カルボキシ基(COOH)で置換されています。
- 分子式:(C6H10O5)n(COOH)x(CH3CO)y
- 特徴:酢酸デンプンと酸化デンプンの性質をあわせ持っており、糊化開始温度が低い、粘度が低い、透明性が高い、老化が遅い、色が白いという特徴があります。
アセチル化アジピン酸架橋デンプン
- 用途:かまぼこや魚肉ソーセージなどの水産練製品やソーセージ、ハンバーグなど畜肉製品の弾力性向上などに使われます。食品添加物規格により、アジピン酸基が0.135%以下と、架橋程度に上限が定められています。
- 製造方法:でんぷんに無水酢酸と無水アジピン酸を加えて、でんぷん分子間のいくつかの水酸基をアジピン酸基(COOH-(CH2)4-COOH)で架橋するとともに、でんぷん分子のいくつかの水酸基をアセチル基(CH3CO)に置換します。
- 分子式:(C6H10O5)n(C6H8O)x(CH3CO)y
- 特徴:酢酸デンプンと架橋デンプンの性質をあわせ持っており、糊化開始温度が低く、加熱時に膨潤しにくく、また離水等のデンプン老化が遅いという特徴があります。さらに耐せん断、耐酸性もあります。
アセチル化リン酸架橋デンプン
- 用途:みたらし団子のたれの離水防止や粘度安定性の向上、レトルト食品 (ソース部分) の調理耐性や粘度安定性の向上、たれ・ソース類やフィリング類の機械耐性向上など。
- 製造方法:でんぷんにオキシ塩化リンまたはトリメタリン酸、および無水酢酸または酢酸ビニルでエステル化して製造します。でんぷん分子間のいくつかの水酸基をリン酸で架橋するとともに、でんぷん分子のいくつかの水酸基をアセチル化します。
- 分子式:(C6H10O5)n(PHO2)x(C2H3O)y
- 特徴:酢酸デンプンと架橋デンプンの性質をあわせ持っています。糊化開始温度が低く、加熱時に膨潤しにくいほか、離水等のデンプン老化が遅いという特徴があります。さらに耐せん断性、耐酸性を有しています。
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
- 用途:ドレッシング類に含まれる油分と水分が分離するのを防いで安定化する目的や、油分と水分が混合された乳化香料の基材として使われます。
- 製造方法:でんぷんに無水オクテニルコハク酸を加えてエステル化することで、水酸基の一部をオクテニルコハク酸基で置き換えます。
- 分子式:(C6H10O5)n [C(O)CH (CH2COONa) CH2CH:CH(CH2)4 CH3]x
- 特徴:水と油のように、本来混ざり合わないものを均一に混ぜ合わせることができる性質があり、乳化剤として使われます。糊化温度はでんぷんよりやや低く、粘性、保存安定性はでんぷんより高いという特徴があります。
リン酸架橋デンプン
- 用途:スナック菓子、てんぷら粉、パンの食感改良、かまぼこや魚肉ソーセージなどの水産練製品やソーセージ、ハンバーグなど畜肉製品の弾力性向上に使われています。
食品添加物規格により、リン酸架橋デンプンではリン含量として0.5%以下と、架橋程度に上限が定められています。
リン酸架橋デンプンは、非常に少量のリン含量でデンプンの特性を変化させることができるので、通常使用されるリン酸架橋デンプンのリン含量は0.1%以下です。 - 製造方法:でんぷんに少量のトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンを加えて、エステル化させることで作ります。
- 分子式:(C6H10O5)n (HPO2)x
- 特徴:分子内または分子間の水酸基がリン酸(HPO2)で架橋されて水酸基の数が減ります。そのためでんぷん粒の膨潤や糊化(=粘り気の発生)や、かく拌や酸による粘度の低下が起こりにくくなります。なお架橋の多さによって性質が異なり、低架橋度のものはでんぷん粒の膨潤が適度に抑制されて粘度は上昇する一方、高架橋度ものはでんぷん粒の膨潤が強く抑制され、粘度は低下します。

リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
- 用途:冷凍食品の離水防止やチルド食品の老化抑制、たれ、ソース類やフィリング類の外観向上などに使われます。
- 製造方法:リン酸化デンプンとリン酸架橋デンプンの製造法を組み合わせて製造します。その結果、でんぷん分子間の一部の水酸基がリン酸で架橋されるとともに、でんぷん分子の一部の水酸基が、リン酸基で置換されます。
- 分子式:(C6H10O5)n (PHO2)x (H2PO3)y
- 特徴:透明で安定性が高く、凍結に対する安定性も高い。電解性があるので耐塩性、耐酸性が低い。
ヒドロキシプロピルデンプン
- 用途:冷凍食品やパンに加えることで、でんぷんの老化を防ぐことで賞味期限が長くなります。ほかにも、食感をよくしたり、形が崩れるのを防ぐといった効果もあります。
- 製造方法:でん粉と酸化プロピレンを反応させ、結合させることで作ります。これをエーテル化といいます。グルコースの水酸基のうち、いくつかに親水性のヒドロキシプロピル基が付加されています。
- 分子式:(C6H10O5)n [CH2CH(OH)CH2]x
- 特徴:ヒドロキシプロピル基の導入により親水性が増大し、水に溶けやすく、また水分を保ちやすくなり、老化が起こりにくくなります。水分を多く保つため、冷蔵や冷凍の前後の変化を少なくできます。
さらに水酸基からヒドロキシプロピル基への置換度 0.1 で糊化温度が10℃程度低下します。水と加熱すると均一な糊液となる。糊液は冷却しても透明であり、冷蔵や、凍結融解に対して優れた安定性を持っています。
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン
- 用途:冷凍食品の離水防止やチルド食品の老化抑制、たれ、ソース類やフィリング類の安定性向上などに利用されます。
- 製造方法:でんぷんにトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンを加えて、でんぷん分子間のいくつかの水酸基をリン酸基で架橋します。さらにプロピレンオキシドを加えることで水酸基の一部をエーテル化し、ヒドロキシプロピル基(CH3CH(OH)CH2O)で置換します。
- 分子式:(C6H10O5)n (C3H7O)x (PHO2)y
- 特徴:ヒドロキシプロピル基の導入により親水性が増大し、糊化温度が低下するとともに、加熱時に糊液が膨潤しにくくなります。また粘性の調節が可能で、冷却時、凍結・融解時、および加熱時の透明性・安定性が高いという特徴があります。これは、ヒドロキシプロピルデンプンとリン酸架橋デンプンの性質をあわせ持っています。
デンプングルコール酸ナトリウム
- 用途:食品添加物としては、食品の保水性を高めたり、食感にとろみや安定性を出したりするための糊料(増粘剤・安定剤)として使用されているようですが、具体的な使用例はわかりませんでした。一方、医薬品用途では、錠剤を固める際の賦形剤として用いられており、デンプングルコール酸ナトリウムを使用すると、錠剤を服用した後、すばやく崩壊します。化粧品用途では、結合剤、皮膜形成剤、親水性増粘剤、乳化安定剤として使われます。
- 製造方法と分子式:でんぷんのカルボキシメチルエーテルまたはその架橋物のナトリウム塩ということで、製造方法と分子式はわかっていません。
加工でんぷんの製造で使われる化学反応と性質の変化
でんぷんはグルコースがつながってできたものです。そのグルコース残基の 2, 3, 6 位にある水酸基( OH )に化学物質を結合させたり、2 つの水酸基どうしをつなぐことで、構造を変化させたのが加工でんぷんです。どのような化学物質と反応させると、でんぷんの性質がどのように変わるのか、見ていきましょう。
酸化
でんぷんに次亜塩素酸ナトリウムを加えて酸化処理すると、水酸基(OH)の一部がカルボキシ基(COOH)に置き換わります。このように化学構造の一部が別の化学構造で置き換わることを置換といいます。
その結果、次のような性質の変化が起こります。
○ 糊化開始温度が低くなる
○ 糊液の粘性が低くなる
○ 糊液の粘度安定性が高くなる
○ 老化しにくくなる
○ 透明性が高くなる
○ 色が白くなる
酸化によって作られる加工でんぷんは、次の 2 種類です。
・酸化デンプン
・アセチル化酸化デンプン
アセチル化
でんぷんに無水酢酸や酢酸ビニルを加えるとエステル化が起こり、水酸基( OH )の一部がアセチル基( CH3CO )に置換されます。
その結果、次のような性質の変化が起こります。
○ 糊化開始温度が低くなる
○ 老化しにくくなる
○ 透明性が高くなる
アセチル化した加工でんぷんは、次の 4 種類です。
・酢酸デンプン
・アセチル化アジピン酸架橋デンプン
・アセチル化リン酸架橋デンプン
・アセチル化酸化デンプン
リン酸化
でんぷんにオルトリン酸、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムのいずれかと反応させることで、水酸基( OH )の一部がリン酸基( H2 PO4 )に置換されます。
その結果、次のような性質の変化が起こります。
○ 置換度が高いほど、糊化しやすくなる
○ 置換度 0.05 程度から冷水でも膨潤する
○ 糊液は高粘性で透明になる
○ 保水性が強く老化しにくくなる
リン酸化した加工でんぷんは、次の 2 種類です。
・リン酸化デンプン
・リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
架橋
でんぷんに無水アジピン酸、オキシ塩化リンまたはトリメタリン酸を加え、水酸基( OH )どうしが化学物質を介して結合することで、構造を変化させたものです。
架橋するとでんぷんの水酸基の数が減るとともに、でんぷんの構造が強固になるため、次のような性質の変化が起こります。
○ でんぷん粒の膨潤が起こりにくくなる
○ 糊化が起こりにくくなる
○ 撹拌や酸による粘度の低下が起こりにくくなる
○ 耐せん断性が向上する
○ 低架橋度の場合、でんぷん粒の膨潤が適度に抑制されて、粘度が上昇する
○ 高架橋度ものはでんぷん粒の膨潤が強く抑制され、粘が低下する
架橋した加工でんぷんは、次の 5 種類です。このうち、アセチル化アジピン酸架橋でんぷんは、アジピン酸基( COOH – (CH2)4 – COOH )で、そのほかの 4 つはリン酸( HPO2 )で架橋しています。
・リン酸架橋デンプン
・アセチル化リン酸化架橋デンプン
・ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン
・リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
・アセチル化アジピン酸架橋デンプン
表示に関する問題点
化学物質なのに化学物質名の表示は不要
容器・包装された食品で食品添加物を使用している場合、食品添加物欄にその化学物質名を書かなければなりませんが、加工でんぷん 12 種類については例外的に、化学物質名の表示はしなくてよいことになっています。
2008 年 10 月に食品衛生法施行規則の一部を改正する省令が公布され、加工でんぶん 12 種類は指定添加物となりましたが、それ以前は、デンプングルコール酸ナトリウム以外の 11 種類は、食品として扱われ、原材料欄に「加工でんぷん」等と表記されていました。そのため、デンプングリコール酸ナトリウムを含めた 12 種類については、化学物質名に代わり、加工でんぷん、加工でん粉、加工デンプン、加工澱粉という簡略名で表示してもよいということになりました。
表示に関しては、さらに複雑なルールがあります。上記の 12 種類の指定添加物を乳化剤として使う場合は、単に「乳化剤」と書くだけでよく、「物質名」も「加工でんぷん」も書く必要がありません。一方、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料として使う場合は、用途名(物質名)、具体例としては、「増粘剤(加工でんぷん)」と書くことになります。それ以外の用途の場合は、「物質名 または 加工でんぷん」と表示するというルールになっています。
消費者の知る権利
加工でんぷん 12 種類は、2008 年 9 月まで、食品として扱われてきたという経緯から、指定添加物であるにもかかわらず、加工でんぷんという簡略名で表示することが、認められています。これらの 12 種類の化学物質について、十分な科学的データを持ち合わせていないので、安全性についての議論は差し控えますが、たとえ安全であったとしても、消費者には、どのような添加物が使われているのかを知る権利はあると思います。
原材料表示欄に「オクテニルコハク酸デンプンナトリウム」と書かれていたら、
「聞いたことがない名前?」 → 「食べても安全?」 → 「こどもに食べさせるのはやめよう!」
となるかもしれませんが、「加工でんぷん」と書いてあると、「でんぷんを加工したものか・・・」
と思って、買うことはないのでしょうか。
もし、化学物質名を書くより加工でんぷんと書いた方が売れる、と考えているとれば、とんでもない話だと思います。