HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)用途と安全性

米粉パンに入っていることがある HPMC。正式名称は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースといいます。食品添加物(指定添加物)で、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料として使われます。セルロースを原料として化学反応で作られ、自然界には存在しませんが、安全性は高いといわれています。HPMCを使うことで食感や保存性が改善されます。

HPMC の製造方法

HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース) の原料は、セルロースです。セルロースはほとんどすべての植物に含まれていますので、何からでも取り出すことができますが、工業用に大量生産されているものは、ほとんどが木材パルプを酸で加水分解・精製して作られたものです。

セルロースは食品添加物(既存添加物)として長年使用されています。既存添加物とは、長年食品として摂取してきた経緯があることから、安全であると考えられているものです。ちなみに日本で「セルロース」と表示される食品添加物には、粉末セルロース、リンターセルロース、微結晶セルロース(=結晶セルロース)、微小繊維状セルロースの4種類があります。

HPMC は、セルロース → メチルセルロース → HPMC という順序で、化学反応によってつくられます。

メチルセルロースは、セルロースをクロロメタンまたはプロピレンオキサイドの混合物と反応させることにより、セルロースの水酸基(-OH)の約 3 割をメトキシ基(-OCH3)で置き換えたものです。メチルセルロースも 60 年以上にわたり、食品添加物(指定添加物)として使われているものです。指定添加物は、安全性と有効性を確認したうえで、国が指定した食品添加物です。

このメチルセルロースの水酸基をさらにヒドロキシプロピル基(-OCH2CHOHCH3)に置き換えたものが、HPMC です。製造する際は、メチルセルロースを水酸化ナトリウムで処理した後、塩化メチルや酸化プロピレン、あるいは酸化エチレンなどのエーテル化剤と反応させて作られます。

要するに、セルロースの水酸基をメトキシ基とヒドロキシプロピル基で置き換えたものが HPMC ですが、メトキシ基とヒドロキシプロピル基の割合によって、HPMC の特性と用途が異なります。

HPMCの特性

HPMC は液体に粘度やとろみを与える「増粘剤」として使われますが、一般的な増粘剤とは違った特性を持っています。

片栗粉(じゃがいもでん粉)でお料理にとろみをつけるとき、
・片栗粉と水を 1 : 1 〜 1 : 2 で溶いた水溶き片栗粉を作る。
・お料理の加熱を止め、水溶き片栗粉を少しずつ回しながら入れ、よく混ぜる。
・お料理を再度加熱する。
という手順で行います。お料理が冷めて、食べ頃になると、お料理に程よいとろみがついています。

つまり、加熱すると溶ける(= 粘度が低い)、冷めるととろみがつく(= 粘度が高い)という特性があります。

これに対し、HPMC は、冷えているときは溶けていて(= 粘度が低い)、加熱すると固くなる(= 粘度が高い)という、逆の挙動を示します。そして、この固まった液をまた冷やすと、もとの流動性のある状態に戻ります。

このほか HPMC には、他の物質との相互作用を起こさない、時間とともに性質が変化せず、安定性に優れているという特性もあります。

さきほど、メトキシ基とヒドロキシプロピル基の割合によって、HPMC の特性と用途が異なるという説明をしましたが、具体的には次の表のとおりです。

 

メトキシ基の割合 27~30 % 27~30% 19~24%
ヒドロキシプロピル基の割合 4~7.5% 7~12 % 4~12%
HPMCの特性と用途 乳化性に優れます。加熱時の乳化安定に向いている。 界面活性・泡保持能力・フィルム成形性に優れている。 溶解温度が高く、結着力に優れます。

 

 

出典:信越化学工業ホームページ

 

HPMC の用途

HPMC は、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料として使われますが、具体的な用途と使用量をまとめました。

グルテンフリー米粉パン、パウンドケーキ

生地に粘弾性を与え、焼しぼみを抑制し、焼きあがったときのボリュームを保ちます。そして食べたときに良好な食感が得られます。グルテンの機能を代替することができます。

  • 添加量は0.5~1.0%。

ドーナツ、冷凍コロッケ

油で揚げたときに形が崩れたり、パンク(破裂)するのを防ぎます。また油を吸うのを防ぎます。

  • 添加量は0.2~1%。

フィリング製品

加熱しても形が崩れず、油分と水分を安定して保持します。電子レンジでの加熱によって、食品の性状が変化しません。また食品からのドリップ(離水)を防ぎます。

  • 添加量は0.3~0.6%。

フライドポテト

表面に付ける粉に混ぜることで、吸油量を少なくします。

スポンジ製品

気泡を保持することで、ボリュームアップするとともに、しっとり感が得られます。

  • 添加量は粉に対して0.5%。

肉まんの皮

熱によって皮が破れにくくなる。

調味液・ソース

温度変化による粘度の変化を少なくします。

  • 添加量は0.3~0.5%。

サプリメント

錠剤の強度を向上させて摩損による粉化を防ぎます。またコーティングが容易で、不快な味のマスキングや着色も可能です。4

 

安全性

セルロースから化学合成された HPMC は本当に安全なのか、何か害はないのか、気になるところです。HPMC を製造しているメーカーのホームページには「安全」と書かれていますが、それでも心配という方も多いと思います。結論から言いますと、HPMC は通常の範囲で使用している限り、ひじょうに安全な食品添加物です。理由を説明していきましょう。

ほとんど吸収されない

HPMCは、食物繊維としてふだん食べているセルロースから作られており、構造がよく似ています。食物繊維は人間の消化酵素では分解されないため、ほとんど吸収されることはありませんが、HPMCも同様にほとんど吸収されません。

ただ「ほとんど」といっているのは、一部の腸内細菌が HPMC を分解し、ガスと脂肪酸を作るからです。

お腹が張ったりおならが出るのは、腸内細菌が作るガスが原因です。そしてガスとともに作られる脂肪酸は、ごく少量ですが大腸から吸収されます。そのため、全く吸収されないわけではないため、「ほとんど」といっています。HMPCのカロリーは 0 kcal/g として計算されます。

発がん性、遺伝毒性、生殖毒性、発生毒性はない

発がん性は、正常な細胞をがん細胞に変化させる性質です。

遺伝毒性とは、遺伝子であるDNAや染色体、あるいはそれに関連するたんぱく質に作用し、DNAや染色体の構造や量を変化させる性質です。

生殖毒性は、親の性行動、性成熟、受精、妊娠、出産、哺育等に対する毒性、発生毒性は、受精前、出生前、出生後から死に至る一連の児の発生過程における、早期死亡、形態異常、発育遅延、行動機能異常などを引き起こす毒性のことです。

HPMC にはもこのいずれの毒性もないことが実験によって確認されています。

ちょっと話がそれますが、私たちが普段食べているものの中にも、発がん性がある食品はかなりあります。例えばお酒。世界保健機関(WHO)の一機関である国際がん研究機関(IARC)は、発がん性のリスクによって食品を 5つのグループに分けていますが、アルコールはヒトに対する発がん性が最も高い(=明らかに証明されている)グループ1 に分類されています。

化学的に合成されたものが危険で、天然由来のものが安全ということは全くありません。天然由来のもので発がん性があるものは、たくさんあります。

健康被害の報告がない

もともと HPMC は医薬品原料として使われてきましたが、2003年6月に食品添加物として指定されました。その際に「保健機能食品たるカプセル剤及び錠剤以外の食品に使用してはならない」との使用基準が定められ、錠剤の割れ、欠け、摩損を抑えるための透明フィルム(フィルムコーティング剤)に限って、使用が始まりました。その後 2007年2月に使用基準が改正され、用途制限がなくなり、一般の食品にも利用されるようになりました。日本で一般の食品に利用されるようになってから、20 年近く経ちますが、この間、健康被害の報告はありません。

米国ではこれより前から食品添加物として使われてきましたが、同様に健康被害の報告はありません。

また食品添加物として使用する際に設定される場合があるADI(一日摂取許容量)も、HPMCについては設定されていません。また、目薬(人工涙液)の成分としても利用されています。

副作用はある!?

安全性が高い HPMC ですが、実は副作用はあります。それは大量に摂取した場合、軟便や下痢が起こることです。

これはHPMCが消化・吸収されないことが原因で、例えばミンティア(清涼菓子)に含まれるソルビトールや、ガムに含まれるキシリトールで、お腹が緩くなったり、下痢をしたりすることと同じです。

HPMC はソルビトールやキシリトールに比べると、摂取する量が少ないと考えられるので、この副作用について心配する必要はありません。

なお、EUでは食品への添加が認められていないというネット記事がありますが、これは間違いです。HPMCはEUの食品添加物リストに載っています。ただ用途に制限があり、卓上甘味料(液状、粉末状、錠剤)への使用が認められています1)。

まとめ

  • HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)は、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料などとして加工食品に使われています。
  • 一般的な増粘剤とは異なり、温度が上がると粘度が上がり、温度が下がると粘度も下がるという特性があります。また他の物質と相互作用を起こさず、安定性に優れています。
  • HPMCはグルテンフリー米粉パン、ドーナツ、冷凍コロッケ、フライドポテトなど、さまざまな食品に使分けています。HPMCを使うことで食感や保存性が改善されるのであれば、上手に利用すべきと考えます。
  • HPMCは口から入ってもほとんど吸収されず、発がん性、遺伝毒性、生殖毒性、発生毒性がないことがわかっています。また長期間使用されていますが健康上の問題は報告されていません。摂りすぎるとお腹が緩くなりますが、ひじょうに安全な食添加物といえます。

参考文献
1) Food Additives Database
https://webgate.ec.europa.eu/foods_system/main/?event=substance.view&identifier=189